大使館便り第105号(平成23年12月)
平成23年12月 2日
在ポルトガル日本国大使館
1.四宮大使からのメッセージ
12月、今年もはや師走となり、皆様にはお忙しい毎日かと存じます。
先月のリスボンでは、激しい雨と20度を超える陽光が交互に訪れる日々が続きました。この時期の初夏のような陽気を、こちらでは「サン・マルティーニョの夏」と呼ぶそうです。ローマ時代の聖人マルティーニョが困った人を助けたところ、空がにわかに晴れ上がったという伝説がその由来とのことです。
11日は「サン・マルティーニョ」の日とされていて、旬を迎えた栗の実を焼いたり茹でたりして、今年の出来たてワインと一緒に楽しむ習慣があります。リスボンでは、ワインの絞り粕を再度発酵させた「アグア・ペ」(足の水の意。足で踏んで搾ったものという意味でしょうか。)と呼ぶ自家製のお酒も飲まれます。あまり上等なワインとは言えませんが、イタリアのグラッパ酒やフランスのマール酒などは、この様な原酒を蒸留したものです。
この季節、リスボンの街のあちこちで見かける「焼き栗」売りのスタンドは、欧州各地の秋の風物詩の一つです。当国の「焼き栗」は、まぶした塩で他の国のものより少し白く見えますが、味は甘くて後を引く美味しさです。
もう一つ、気になる今年のポルトガルのワインの出来映え(ブドウの品質)について、関係者から次のようにお聞きしました。今年は春(4月~6月)が比較的暖かく、雨も多かったため、ほとんどの地域で果実の生育期に白カビの害が起こりやすかった。また、北部のドーロ地方を中心に、ヒョウの被害も見られた。このため、生産量は20%ほど減少したが、白カビ対策に成功したブドウ畑では、平年並以上の品質の果実が収穫された。果実の成熟期に昼夜の気温差が大きいと、果実の糖度を上げる作用があるが、特に7月が比較的涼しかった(夜間の温度が下がった)南部のアレンテージョ地方では、果実の成熟が順調で、高品質のものが収穫された。他の地域でもおおむね同様の現象が見られ、今年のワインは全般に生産量は減少したものの、品質は例年を上回っている、とのことでした。
他方、11月は当国の財政危機の関連で、政府の対応策を具体化する来年度予算案の国会審議があり、月末に可決されました。 国民に厳しい負担を強いる予算ですが、事前にリスボンとポルトの両都市圏で行われた世論調査でも、市民の63%がこの予算案を十分理解していると答えています。また、経済の悪化を認識しつつも、41%が国際社会でポルトガルが信用を回復するにはこの予算は必要だと回答しています。
実際、トロイカ(EU,ECB,IMF)との合意の履行状況についても、先月行われたトロイカ側の第二回目の審査で評価を受けたように、この国の対応は政府も国民もかなり頑張っているという印象です。24日に2大労働組合の呼びかけで行われた「ゼネスト」も、公共交通機関が大幅に運休したり、数人の怪我人や逮捕者はあったものの、整然とした行動が目立ちました。予算案の採決でも、最大野党でトロイカの支援を求めた時の政権党だった社会党は、この予算に反対せず棄権にまわりました。審議の過程では社会党内には反対票を投ずべしとの意見もありましたが、今回は棄権して予算を容認したものの、これから国民の負担が増えていくと、野党や世論の反応はさらに厳しくなっていくと予想されます。
国内は経済問題で厳しい状況ですが、外交面ではポルトガルは11月に国連の安全保障理事会の議長国を努めました。安保理は国連において、世界の平和と安全の維持に主要な責任と役割を果たすため、加盟国に法的拘束力を持つ決定も行える、国連の最重要機関です。昨年、その非常任理事国の選挙で欧米地域の2議席をドイツとカナダとともに争い、激戦を勝ち抜いた当国です。今年から2年間の任期で、既に安保理の「リビア制裁委員会」や「北朝鮮制裁委員会」など重要問題を扱う小委員会の議長も務めています。外務省のコミュニケでも、安保理メンバーと他の加盟国との連携で重要な架け橋の役目を果たして来たと謳うなど、グローバルな問題にもこの国なりの役割を果たそうとの意気込みが感じられます。経済問題で苦悩しつつも、EU、NATOそしてポルトガル語圏諸国との関係に閉じ籠もらず、よりグローバルな問題へも関与を深めようとする努力は、この国が未来の成長に向けて脱皮する節目となるかもしれません。この面でも、この国の動きを注意深く見ていきたいと思っています。
文化面では、当国の民族歌謡とも言うべき「ファド」が先月、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。日本でも多少は知られている「ファド」の魅力が、これを機にさらに日本の人々の関心を引くことを期待します。
また大使館では、日本とポルトガルとの歴史的関係や現代日本に関して、当国の青少年にもっと認識を深めてもらいたいと考え、具体的な企画を教育省と協議してきました。今般、教育省の監督の下に、全国の青少年による日本についての「ブログ・コンテスト」を行うこととなり、関係機関との合意書が署名されました。日本との歴史的関係や現代の日本について、質の高いブログを彼らがインターネットで作成するコンテストです。どのような日本とのイメージが描き出されるのか、結果が出そろう来年春の審査が楽しみです。
最後に、先月リスボンの「グルベンキアン劇場」で行われた坂本龍一のコンサートにも触れたいと思います。ヴァイオリンとチェロの奏者と3人で行った坂本のピアノ演奏は、技術面だけでなく音楽への深い情感を感じさせる素晴らしいものでした。当国でも聴衆のレベルが高く、文化公演の質が厳しく問われますが、日本人の世界的な音楽家による演奏に、大劇場を埋め尽くした観客がスタンディング・オベーションで何度もアンコールを求めた姿は印象的でした。
今年の日本は、3月の大震災や原発事故を始め多くの天災などがあり、現在も困難が続いています。ポルトガルの財政危機だけでなく、欧州や米国のいわゆるソブリン危機もまだ解決の目処がついていません。
本年も残り少なくなりましたが、皆様にはご自愛のうえ、良い年をお迎え下さるようお祈り申し上げます。
2.大使館からのお知らせ
(1)総政務・経済班からのお知らせ
【2012年度予算案の成立】
30日、議会で安定多数を確保する連立与党・社会民主党(PSD)及び民衆党(CDS/PP)は、本予算案を可決。注目されていた公務員及び年金生活者を対象とした夏期・クリスマス休暇手当の廃止(2013年まで)については、月収1100ユーロ以上の者は両手当の全額廃止、月収600~1100ユーロ未満の者は累進的に減額されることになりました。なお、社会党(PS)は棄権、共産党(PCP)、左翼連合(BE)、緑の党(PEV)は各々反対票を投じました。
【カヴァコ・シルヴァ大統領の訪米】
9~15日、カヴァコ・シルヴァ大統領は、2006年の就任以来2度目となる訪米を実施。オバマ大統領との会談をはじめ、国連安保理の会議主宰(当国は11月の安保理議長国)、ポルトガル系米国人商工会議所メンバーとの会合、カリフォルニア州サンノゼのポルトガル人コミュニティとの夕食会出席、シリコンバレー訪問等を行いました。
オバマ大統領との会談後には、長年の友好・同盟関係に基づく強力なパートナーシップの再確認、ポルトガル系米国人コミュニティの重要性、ポルトガルの財政再建策に対する米国の全面的支持の表明、人権に関する国連の役割、NATO軍事作戦に関する協議実施等を盛り込んだ、ポルトガル米国共同宣言が発表されました。
【欧州委員会(EC)による秋期経済見通し】
欧州委員会(EC)は、秋期経済見通しを発表。ポルトガルの2012年GDP成長率に関し、前回・春期経済見通しの▲1.8%から▲3.0%へ下方修正しました。当地「ジョルナル・デ・ネゴシオス」紙によれば、本年及び明年に、ユーロ圏で景気後退となる国はポルトガルとギリシャのみであり、ポルトガルの2012年GDP成長率は域内最大の落ち込みとなります。なお、当国に関する主な経済見通しは下表の通りです。
2011年 |
2012年 |
2013年 |
|
GDP成長率 |
▲ 1.9 |
▲ 3.0 |
1.1 |
失業率 |
12.6 |
13.6 |
13.7 |
インフレ率 |
3.5 |
3.0 |
1.5 |
貿易収支 |
▲ 7.2 |
▲ 4.0 |
▲ 2.7 |
経常収支 |
▲ 7.6 |
▲ 5.0 |
▲ 3.8 |
財政収支 |
▲ 5.8 |
▲ 4.5 |
▲ 3.2 |
政府累積債務残高 |
101.6 |
111.0 |
112.1 |
(注)経常収支、財政収支、政府累積債務残高は対GDP比、それ以外は前年比。単位(%)
【トロイカ調査団による第2回四半期定期評価作業】
7~16日、欧州委員会(EC)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の専門家で構成されるトロイカ調査団が、トロイカ合意(MoU)履行に関する第2回四半期定期評価作業を行い、財政再建は適切に進んでいると判断。その結果、ポルトガルは支援総額780億ユーロの内、第3回目の融資80億ユーロ(EU53億ユーロ;IMF27億ユーロ)を12月及び1月に受領することが事実上決まりました。次回定期評価作業は、明年2月に予定されています。
(2)広報・文化班からのお知らせ
【山本薩夫映画祭】
リスボン市のシネマテカにおいて、国際交流基金事業として、山本薩夫映画祭が以下の日程・プログラムで開催されます。詳細については下記までお問い合わせ下さい。
日時:12月2日(金)~19日(月)
会場:Cinemateca Portuguesa
住所:Rua Barata Salgueiro 39, 1269-059 Lisboa
プログラム:
»2日(金) 19:00~「牡丹燈籠」
»5日(月) 19:30~「牡丹燈籠」、 21:30~「荷車の歌」
»7日(水) 19:00~「忍びの者」
»9日(金) 19:30~「忍びの者」、 21:30~「続・忍びの者」
»12日(月) 19:00~「暴力の街」、 22:00~「荷車の歌」
»13日(火) 19:30~「続・忍びの者」
»14日(水) 21:30~「傷だらけの山河」
»15日(木) 21:30~「白い巨塔」
»16日(金) 21:30~「金環蝕」
»19日(月) 19:30~「暴力の街」、 22:00~「傷だらけの山河」
料金:3ユーロ
問い合わせ先:21 359 6250/51/52(シネマテッカ)
【日本語学習サイト「エリンが挑戦!にほんごできます。」のポルトガル語版開設】
国際交流基金による無料日本語学習サイト「エリンが挑戦!にほんごできます。」のポルトガル語版が開設されましたので、下記サイトにアクセスの上、どうぞご利用下さい。
【日本事情紹介サイト「Web Japan」のご案内】
「Web Japan」は、「Trends in Japan」、「kids Web Japan」、「Japan Fact Sheet」、「Japan Video Topics」、「Japan Links」の5つのサブサイトから成る日本事情を海外に紹介するためのウェブサイトです。以下のURLからアクセス可能ですので、ご利用下さい。
(実施報告)
【新井在ポルトガル日本大使館公使による講演会「日本の伝統と美意識」】
10月27日、リスボン市のサン・ロケ協会美術館において、新井公使による「日本の伝統と美意識」と題する講演が行われました。講演開始に先立ち、同美術館のモルナ館長が、16世紀の天正遣欧少年使節にまつわるサン・ロケ教会と日本との縁について触れ、講演終了後には、参加者より新井公使に対し、今回の講演でさらに日本に興味を持てた、今後も日本文化を知る機会を引き続き提供して欲しいといった声が寄せられました。
パワーポイントを用いて講演する新井公使 |
講演後、参加者と懇談する新井公使 |
【ポルトガル・カトリック大学主催「災害未来会議」への四宮大使の出席】
11月12日、四宮大使は、セトゥーバル市アラビダ修道院におけるポルトガル・カトリック大学主催「災害未来会議」に出席し、「東日本大震災と日本人」と題したクロージングスピーチを行いました。地震学者等各国の専門家が集う中、講演では、1923年の「関東大震災」、自身の前任地にて体験した「ハイチ地震」、去る3月の「東日本大震災」による津波被害、そして天災から立ち直る日本人の底力等について触れ、この度の震災に際し国際社会からの支援活動、連帯の表明に大変勇気付けられた旨謝意を表しました。
講演を行う四宮大使 |
参加者との記念写真 |
【四宮大使のレイリア市訪問】
11月16日、四宮大使は、徳島市と姉妹都市であるレイリア市を訪問し、カストロ市長との懇談、同市内のSPA施設を有するホテル・自動車部品の型製作会社等の視察及び関係者との意見交換を行いました。この度の訪問は、日本との経済交流を強く希望するカストロ市長の招待によるもので、市長からは徳島市との交流を一層活発化させていきたい旨、また四宮大使からは今後の日ポ経済交流促進に向けさらなる協力を行なっていきたい旨話し合われました。
四宮大使にレイリア市の海岸を |
Moldetipo社の工場で製品の |
【新井在ポルトガル日本大使館公使による日本食をテーマとした講演、及び日本食デモンストレーション・試食】
11月16日、コインブラ大学において、新井公使による「日本料理の魅力」を紹介する講演会、併せて日本食デモンストレーション及び試食が行われました。2時間にわたるイベントでは、豊富な画像を用いた新井公使の講演に引き続き、日本食シェフによるにぎり寿司・焼き鳥などの試食が行われ、大変な盛況を博しました。
講演を行う新井公使 |
デモンストレーションを行う日本料理シェフ |
日本食試食風景 |
【ポルトガル日本友好協会主催「国際武道大会」への新井公使の出席】
11月20日、オエイラス市のサン・ジュリアン・ダ・バーラ・スポーツパビリオンにおいて第15回国際武道大会が開催され、当国の各種武道団体によるデモンストレーションが披露されました。大会には当館の新井公使が出席し、開会式の挨拶において東日本大震災の際のポルトガルからの多大な支援に謝意を述べました。また、10月の日本祭(Festa do Japao)への参加に感謝し、今後毎年の恒例事業として日本祭を実施する計画があることを紹介しました。
【からくり人形レクチャー・デモンストレーション】
国際交流基金マドリード日本文化センター主催により、11月22日にリスボン市、23日にポルト市において、半屋春光氏による日本伝統の「からくり人形」のレクチャー・デモンストレーションが開催されました。講演では、半屋専門家のわかりやすい説明に加え、実際に茶運び人形、段返り人形などを動かしながらのデモンストレーションも行われ、現代日本のロボット工学に通じるその精緻な機械仕掛けは、参加者に日本文化の奥深さを強く印象付けました。
からくり人形の説明を行なう半屋専門家 |
実際にからくり人形に手を触れて見る参加者 |
【日本ブログコンクール「Japão Passado e Presente」プロトコール署名式】
11月23日、日本大使館において、日本ブログコンクール「Japão Passado e Presente」のプロトコール署名式が行われました。本コンクールは、日本大使館、全国図書推進委員会(PNL)、学校図書館ネットワーク(RBE)協力のもと、ポルトガルの小学校高学年及び中・高生による日本文化をテーマとしたブログやサイトを対象に行われるもので、セレモニーでは、四宮大使、レイテ小中高教育担当副大臣による挨拶に続き、四宮大使、アマラルPNL委員長、カルサーダRBE代表によりプロトコール署名が行われました。
署名を行う(左から)カルサーダ代表、四宮大使、 |
署名式終了後、四宮大使を囲んで |
(3)領事班からのお知らせ
【E-mail登録のお願い】
インターネットを閲覧することができる方で、まだ当館にE-mailアドレスを登録されていない方は、是非E-mailアドレスご登録ください。
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【在留届に関するお願い】
近年、海外で生活する日本人が急増し、このため海外で事件や事故等思わぬ災害に巻き込まれるケースが増加しています。万一、在留邦人の皆様がこのような事態に遭われた場合には、日本国大使館や総領事館は「在留届」を元に皆様の所在地や緊急連絡先又は日本国内の連絡先等を確認して援護活動を行っています。
当館でも、皆様に提出いただいた在留届により連絡先の把握を行い、大使館からの海外危険情報や広報文化活動などの情報提供、緊急時の連絡網整備、安否確認に役立てているところです。
このため、ポルトガル国内での転居、日本への帰国、他国に転出等、在留届の届け出事項に変更が生じた後、引き続きこの大使館便りをご覧の方は、速やかにその旨を下記領事班あてにE-mailにてご連絡ください。
また、皆様の友人・知人で「ポルトガルに居住しているが、まだ在留届を提出していない方」がおられましたら、届出を行うようご案内ください。
(4)その他
【当館領事業務へのご意見募集】
当館では、領事サービスの向上を図るため、皆様からのご意見を募集いたしております。どのような些細な事柄でも結構ですのでご意見・ご要望等があればお気軽に領事班にご連絡ください。