大使館便り第112号(平成24年7月)
平成24年 7月 2日
在ポルトガル日本国大使館
1.四宮大使からのメッセージ
7月、リスボンでも今年は天候不順が目立ちましたが、いよいよ夏の季節がやって来たようです。ただし、気温はまだ25度前後の日が続いており、先月末の40度近い蒸し暑い日は多くありません。例年より一月も遅れて、街路樹のジャカランダの花はようやく終わりつつあります。乾燥した心地よい気候に誘われるように、観光客は大分増えてきました。
先月は、再選挙の結果次第でギリシャのユーロ離脱もあり得るとの観測が流れ、またスペインの銀行支援や国債価格の下落などで、欧州経済危機への不安がさらに広がりました。しかし、ギリシャでは緊縮策を維持する政権が発足し、EUなどのスペイン支援にも方針が示されました。さらに月末の「欧州理事会」(EU首脳会議)で、財政危機国への支援に一定の対策が示されたことにより、当面の不安感は薄らいだように見えます。とは言え、欧州経済の脆弱性やユーロの制度的欠陥が根本的に解決されるまでの道程はまだまだ不透明です。
この状況の中、コエーリョ政権が先月、発足一周年を迎えました。この機会に同首相は、対外債務の削減、輸出増による経済効果、企業の民営化の進展などがこの一年の成果だったと説明しました。他方、失業率の増加とそのための公的負担の拡大、税収効果の不足などは予想以上に厳しいとの認識です。加えて、社会・経済の構造改革は、ポルトガル自体の努力だけでなく、外的要因にも依存している現実に言及しました。
これに対し、野党や労働組合も、現状への不満を代弁して、成長政策重視、労働法の改正反対等で政府へ圧力をかけています。しかし、最大野党の社会党は、「左翼政党として現状は遺憾であるが、もし政権についていたら出来ないような政策は、野党としても主張しない。」との責任ある姿勢を貫いていることは、注目に値します。
報道された世論調査によれば、5月末時点での与党の社会民主党への支持率は30%半ばで、昨年以来の低下傾向にあり、他方、野党の社会党は与党に近い支持率を得ているようです。緊縮策に対する国民の不満は、静かに広がっているということでしょうか。
なお、先月初めに発表されたトロイカ合意の履行状況に関する調査団の報告書(第4回目)でも、首相と同様の認識が示され、41億ユーロの支援融資が今期も支出されることが承認されました。
さて、6月10日は、16世紀後半にポルトガル文学の黄金時代を築いたルイス・デ・カモインスの命日で、当国のナショナル・デーである「ポルトガルの日」とされています。その祝賀行事は例年、全国のいずれかの地方都市を選んで開催されてきました。しかし今年は財政危機にあって、地方都市での開催をやめ、リスボンで行われました。
前日から各種の行事が続く中、本年はジェロニモス修道院のサンタ・マリア教会にあるカモンイスの棺への礼拝も一連の行事に組み込まれました。また、軍隊のパレードや大統領の演説も同修道院前の広場で開催され、外交団も招待されました。
大統領は演説の中で、国民に向けて現下の緊縮政策に理解を求めたあと、海外在住のポルトガル人に対しても、ポルトガル経済の売り込みに外交使節として協力してほしいと訴えたのが印象的でした。カモンイスは16世紀の大航海時代に、当国の栄光の歴史を叙事詩に残した国民的文人として、現在でもポルトガル人団結の象徴的存在です。大統領の言葉には、国の危機を乗り越えようとするポルトガル人の意気込みすら感じさせられました。
また、6月13日にリスボンでは、同市の守護神を祭る「聖アントニオ祭」もあります。旧市街にある聖アントニオ教会では、礼拝する人々が朝から長い列を作ります。そして、午後にはこの聖人の像を乗せた御輿が僧侶達に担がれ、教区内を練り歩く厳粛な行事が見られます。礼拝に来るポルトガル人は、年配の人が多いとはいえ、若い人や家族連れも少なくありません。
この祭りには前夜祭があり、リスボンでは市民が前日の夜遅くまで、塩焼きにした旬の鰯を肴に酒を飲みお祝いします。市当局も、この時期に「リスボン祭り(フェスタ・ド・リスボア)」を開催し、前夜祭に合わせて市の中心部の大通りで市民団体などのパレードが行われます。聖アントニオ祭は、日本で言えば、ちょっとしたお盆の夏祭りのようなものでしょうか。
2日には、当館でもリスボン市及び「ポルトガル・日本友好協会」と共催で、第2回の「フェスタ・ド・ジャパン」(日本祭り)を、昨年と同じく市内のベレン地区にある「日本公園」で開催しました。今回も、当国にある多くの日本関連の団体や、車両関係の日本企業に出展いただき、また和食の軽食などを販売しました。仮設舞台では、日本の伝統音楽(和太鼓)や武道の公演、さらにコスプレ・コンテストなども行いました。午後から夜遅くまで、日本紹介の催しに4000人以上のリスボン市民がご来場下さり、お陰様で大変な好評を博することが出来ました。ご協力下さった皆様には、この機会に改めて御礼申し上げます。
来年は、1543年にポルトガル人が日本(種子島)来航から470周年ですので、記念行事としてさらに良い企画を考えたいと思っています。
さて、日本とポルトガルとの経済関係の発展を考えると、エネルギー分野での協力には大きな可能性があると思われます。日・ポ双方のニーズを勘案し、スマート・コミュニティーの研究・開発のための実証実験を進めて、ビジネスにつなげようとの趣旨で、当国の経済・雇用省と日本のNEDO(独立行政法人、新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、3月に協力協定を結びました。その一環として、6月末に両者の共催で、今後の協力の方途を検討するセミナーが、多くの日本企業も参加して当地で開催されました。今後、具体的なプロジェクトへと発展していくことを期待したいと思います。
6月末には、リスボン近郊のカスカイス市で、同市の姉妹都市19市が海外から一堂に会する国際フォーラムがありました。日本からは、首都に近い観光都市という共通点のある熱海市(静岡県)が姉妹都市で、市長ご一行が市の文化団体の方々とともに来訪されました。フォーラムでは、市長が熱海の魅力を講演したほか、「熱海きもの倶楽部」の皆様の振り付けで地元の女性達をモデルに、和服のデモンストレーションも行われました。帯の背のお太鼓の部分をほどいて巧みに結び直し、いろいろな花の形を表現する美しいオリジナルな着付けは、会場を魅了しました。数ある参加都市の中でも熱海市の存在感は格別で、嬉しく思いました。これからも、両市の交流発展に当館も協力させて頂きたいと考えます。
姉妹都市交流に関してはこの他、来る8月に人吉市(熊本県)の青少年が恒例のホームステイで当国の姉妹都市のアブランテス市を来訪するそうです。先日、同市の市制記念日の式典に訪問した際にも、市長から右受け入れの準備を進めている旨の説明がありました。同市長は3月に人吉市を訪問しており、日本との文化、青年交流だけでなく、経済交流も進めるべく意欲的に行動されています。アブランテス市はリスボン北東約150キロにある、人口2万人弱の都市で、近くに三菱ふそうも出資するトラック製造工場があります。当館としても、交流の発展を応援していきたいと考えています。
また、当国のエヴォラ市と南島原市(長崎県)が、都市交流の提携に向けて話を進めています。今年の夏にも南島原市から代表団がエヴォラ市を訪れる予定で調整中の由です。
エヴォラ市は1584年に、天正遣欧少年使節団がリスボンからバチカンに向かう途次に滞在した町としても有名で、日本との姉妹都市にふさわしい所の一つといえましょう。この交流発展にも支援したいと考えています。
いよいよ夏の季節となりますが、皆様には、ご自愛のほどをお祈り申し上げます。
2.大使館からのお知らせ
(1)総政務・経済班からのお知らせ
【トロイカ調査団による第4回四半期定期評価作業の結果】
4日、ガスパール財務相は、トロイカ調査団による第4回四半期定期評価作業(5月22日~6月4日実施)の結果について記者会見を行い、ポルトガルは必要な判断基準を満たし肯定的評価を得たと述べました。さらに,失業問題に係る社会保障や税収面でリスク要因はあるものの、本年の財政赤字(対GDP比)目標4.5%の達成に向け,財政再建及び構造改革を引き続き推進する旨明らかにしました。なお、IMFプレスリリースによると、7月のIMF理事会、ユーログループ等で次回融資41億ユーロが正式に承認される見込みです。第5回四半期定期評価作業は9月に実施予定です。
【「ポルトガルの日」(注)におけるカヴァコ・シルヴァ大統領の演説】
10日、カヴァコ・シルヴァ大統領は、リスボン市内で開催された「ポルトガルの日」の式典で演説を行いました。本年はポルトガルが初めてEU議長国を務めて20年目を迎えることから、スピーチの中心は欧州における結束と連帯の重要性に割かれ、経済成長及び雇用創出に向けて行動しなければ、深刻な危機に陥るだろうと述べました。また、国内の経済問題については、悪化する失業問題を乗り越えるために国民全員の努力が必要である旨訴えた他、海外に広がるポルトガル人コミュニティーの“外交使節”としての価値を強調しました。
(注)正式名称「ポルトガル・カモンイス・ポルトガルコミュニティーの日」、カモンイスは16世紀の国民的詩人で、10日はその命日。
【コエーリョ首相の南米(ペルー、ブラジル、コロンビア)訪問】
コエーリョ首相は、18日から6日間の日程で南米3カ国(ペルー、ブラジル、コロンビア)を訪問しました。ペルー(18~19日)では、ウマラ大統領との会談に加え、バルデス首相を含む企業関係者らとの会合に出席し、観光分野等での協力を促進する旨発言しました。続く、ブラジル(20~21日)では、国連持続可能な開発会議(リオ+20)に出席し、ブラジルの取組みを賞賛しつつ、京都議定書に沿った温室効果ガスの削減を実行するポルトガルをアピールしました。最後の訪問地コロンビア(22~23日)では、フアン・マヌエル・サントス大統領と会談を行い、コエーリョ首相は会談後の記者会見で、コロンビアの企業も関心を示しているポルトガル航空(TAP)の民営化に言及し、ラテンアメリカからの投資を歓迎する旨述べました。
【臨時閣議におけるコエーリョ政権1年の評価】
24日、コエーリョ政権発足1周年に際して臨時閣議(副大臣を含む46人出席)がアジューダ宮殿で開催され、閣議後にコエーリョ首相(社会民主党党首)とポルタス外相(民衆党党首)が記者団を前に総括的な発言を行いました。コエーリョ首相は、わずか1年での対外債務の大幅改善や好調な輸出により経済活動の停滞が緩和された点をアピールする一方、失業率悪化による公的負担の増大、及び内需の縮小に起因する間接税(特に付加価値税)の税収が予測以下であったことを挙げ、民営化プロセスの推進、公的債務の削減、EU財政協定の国内法化等9点を重要な目標として掲げました。また、ポルタス外相は、2012年は失われた年ではなく、転換の時となる明2013年にポルトガルが成長サイクルを享受できるよう改革を推進する年であるとし、危機的な状況からは日々抜け出しつつある旨述べました。
(2)広報・文化班からのお知らせ
【「日本語能力試験」の開催】
国際交流基金と日本国際教育支援協会の主催による「日本語能力試験」(JLPT)が下記の要領で実施されます。詳細については下記までお問い合わせ下さい。
実施日時:12月2日(日)
実施会場:Faculdade de Letras da Universidade do Porto(ポルト大学文学部)
Via Panorâmica, s/n, 4150-564 Porto
【第3回日EU英語俳句コンテストの募集期間の延長について】
外務省と欧州連合(EU)は、6月4日(月)から「曙(Dawn)」をテーマに開催している第3回日EU英語俳句コンテストの募集締切りを、6月25日(月)から7月30日(月)まで延長します。副賞として、日本側最優秀賞受賞者にはファン=ロンパイ欧州理事会議長の出身国であるベルギーへ、EU側最優秀賞受賞者には近代俳句の地,松山市道後温泉へそれぞれご招待します。詳細及び応募用紙については、下記URLをご参照下さい。
問い合わせ先:(+81)3-5501-8000 (ext. 5170)(外務省欧州局政策課)
【ポルト大学における日本語翻訳マスターコースの開講】
ポルト大学文学部では、今年より翻訳マスターコースが開講され、日本語が選択科目として履修可能となりました。詳細については、下記までお問い合わせください。
【キヤノン・ヨーロッパ財団の研究奨学金】
キヤノン・ヨーロッパ財団は、あらゆる研究分野を対象とした修士号あるいは博士号取得者向け研究奨学金を支給します。詳しくは、下記までお問い合わせ下さい。
【「ふるさとの風コンサート~「北朝鮮拉致被害者」救済に向けて~」参加団体募集について】
日本政府拉致問題対策本部では、北朝鮮人権侵害問題啓発週間(12月10日~16日)に合わせ,毎年開催しているシンポジウムの他に、合唱を主としたコンサートを計画しており、国内外の参加団体を募集しております。御関心がおありの方は、下記連絡先まで御照会下さい。
募集期間:平成24年6月15日~10月12日
開催日:平成24年12月22日(土)
開催場所:東京都(イイノホール(千代田区内幸町2-1-1))
拉致問題対策本部事務局:http://www.rachi.go.jp/
電話:+81-3581-3887
FAX:+81-3581-6011
e-mail:ej.rachi@cas.go.jp
【Festa do Japão】
6月2日、リスボン市ベレン地区の「日本公園」において、日本大使館・リスボン市・ポ日友好協会他の共催により、生け花、折り紙、書道、俳句、武道演武、日本企業製品展示,日本食販売その他の日本文化紹介イベント「Festa do Japão」が開催されました。当日は、一時小雨も降るなどの空模様にもかかわらず、昨年の第一回を上回る約4千人が会場を訪れ、大変な盛り上がりとなりました。また、和太鼓、三味線、盆踊りといった日本の伝統音楽・芸能の紹介も行われ、来場者は終日、日本の「夏祭り」を満喫しました。御参加、御協力頂いた皆様、どうもありがとうございました。
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開会式での鏡割り |
来場者で賑わう会場 |
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大人気の日本食販売テント |
武道デモンストレーション |
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盆栽の展示 |
コスプレコンクール参加者 |
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日本○×クイズ |
折り紙ワークショップ |
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和太鼓演奏 |
ポルトガル人も多数参加した盆踊り |
(3)領事班からのお知らせ
【スリ、ひったくり事件の発生】
日本人旅行者・出張者がマルケス・デ・ポンバル広場、ロシオ広場、バイシャ周辺において、スリやひったくりの窃盗事案が相次いで発生しています。中には旅行者やビジネスマンを装った犯罪者もいます。
皆様におかれましても、バッグ等の所持品は「たすき掛け」にし、体の前で持つ等して盗難被害に遭わないよう十分ご注意ください。
【E-mail登録のお願い】
インターネットを閲覧することができる方で、まだ当館にE-mailアドレスを登録されていない方は、是非E-mailアドレスをご登録ください。
E-mailを登録していただきますと、大使館便りをE-mailで受け取ることができるほか、イベントの告知や緊急情報等、大使館からの様々なお知らせもE-mailにてお受取りになれますので、E-mailアドレスの登録をお奨めします。
【在留届に関するお願い】
近年、海外で生活する日本人が急増し、このため海外で事件や事故等思わぬ災害に巻き込まれるケースが増加しています。万一、在留邦人の皆様がこのような事態に遭われた場合には、日本国大使館や総領事館は「在留届」を基に皆様の所在地や緊急連絡先又は日本国内の連絡先等を確認して援護活動を行っています。
当館でも、皆様に提出いただいた在留届により連絡先の把握を行い、大使館からの海外危険情報や広報文化活動などの情報提供、緊急時の連絡網整備、安否確認に役立てているところです。
このため、ポルトガル国内での転居、日本への帰国、他国への転出等、在留届の届け出事項に変更が生じた後、引き続きこの大使館便りをご覧の方は、速やかにその旨を下記領事班あてにE-mailにてご連絡ください。
また、皆様の友人・知人で「ポルトガルに居住しているが、まだ在留届を提出していない方」がおられましたら、届出を行うようご案内ください。
(4)その他
【当館領事業務へのご意見募集】
当館では、領事サービスの向上を図るため、皆様からのご意見を募集いたしております。どのような些細な事柄でも結構ですので、ご意見・ご要望等があればお気軽に領事班にご連絡ください。