大使館便り第113号(平成24年8月)
平成24年 8月 1日
在ポルトガル日本国大使館
1.四宮大使からのメッセージ
8月、夏まっ盛りのリスボンでは、交通量が減少したのと対照的に、観光客の姿が目立っています。温度が30度台後半になる日もありましたが、普段は強い日差しでも日陰に入れば爽やかな南欧の夏が続いています。
厳しい経済状況でも、ポルトガルの人々は夏期休暇を忘れません。昨年は国会も緊縮策の審議のため夏期の閉会を2週間で切り上げましたが、今年は本日から休会に入りました。とはいえ、一般の人々は所得の低下で休暇の出費も抑えようとする傾向が顕著なようです。今年の休暇は近場で過ごす、という声をよく聞きます。
そんな中、ポルトガルの経済状況は、5月末のトロイカの定期審査で、財政再建についてやや楽観的な見通しが示されていました。しかし、ここに来て内需の冷え込みや欧州経済の悪化の影響で、雇用状況、GDPの回復、さらに税収などマクロ経済の指標が厳しさを増しているようです。このため、本年末の財政赤字の目標数値4.5%など、重要な数値目標がこのままでは達成できないのではとの懸念が広がってきました。
先月初め、「公務員、年金受給者へのボーナス支払い停止措置」について、憲法裁判所が違憲判決を出しました。各方面から驚きの声を持って迎えられた判決ですが、制度上この判決は、政府や国会を拘束することになります。政府支出を削減する措置が違憲となると、財政再建の道のりはさらに厳しいものとなるでしょう。
なお、この判決は、右「ボーナスの停止措置」が公務員等を差別し、憲法の「国民の権利の平等」に反するとの論旨です。しかし、本年の予算措置、つまり「本年の支払い停止」は合憲としながら、「明年以降の支払い停止」だけを違憲としていること、さらに、公務員の「月給」も削減されている中で、「ボーナス」の削減だけを違憲としている点などに疑問の声も出ています。また、高度な政治判断に係わる政策を裁判所が法的観点だけから判断し、国会や政府を拘束することが、民主主義や三権分立の理念にかなうのかなど、司法権や統治機構のあり方という面からも批判が出ているようです。
右に加えて、現内閣の有力閣僚が、学位を不正に取得していたとのスキャンダルが大きな話題となっています。法的な問題はないとしても、国民が緊縮政策で苦労している最中にこのようなスキャンダルが出るのは、国民の忍耐力を損なう結果となりかねません。
このような状況で、コエーリョ政権は否定していますが、近く、財政支援に係わる履行義務について、条件の緩和を求めるのではないかとの見方が強くなってきました。例えば、財政赤字の削減目標の期限の先延ばしや財政支援への支払い金利の軽減などが考えられます。
また内政面でも、国民の不満や野党の批判に応え、いずれ内閣改造もあり得るとの見方が出ています。
同政権は過去1年あまり、国会での安定多数と国民の支持を背景に、現実的で自己抑制的な緊縮策と経済競争力の強化策を進めてきました。輸出の促進などにも、官民挙げて取り組んでいます。先般、ポルタス外相とガスパール財務相が60社もの経済人と共に中国を訪問したのも、この努力の一環です。外相は経済外交の先兵の役割を果すかのように、就任以来すでに20カ国以上を訪問しました。地道な努力を進める当国の基本路線は変わらないでしょう。しかし、状況が厳しくなる中で、この試練をどう乗り越えていくのか、今後も注視していきたいと思います。
先月も、当国北部にあるガイヤ市を訪問する機会がありました。ドーロ川を挟んでポルト市の対岸に広がる都市です。与党の有力者である市長によれば、人口は30万人を超え、リスボン、シントラに次ぐポルトガル第3の都市となっているそうです。歴史的にはポルト市と一体で発達してきた地域で、将来合併の可能性もあるとの説明でした。産業は、当国を代表する酒精強化ワイン、ポルト酒の醸造所が集中しているほか、繊維など伝統的な産業と共に、近年は医療関係や情報通信産業などの先端産業も発達しています。
同市長からは、この経済危機の中で地元の産業発展のため、日本との経済関係を深めたいとの希望が表明されました。地元マスコミとのインタビューでも、この問題に高い関心があるのを感じました。
当日は、ポルト酒などの製造会社と医療関係のソフト開発会社も訪問したほか、地元企業の方々と懇談の機会を持ちました。ここでも日本との経済関係の強化に強い期待が示めされました。
ポルト市も含めたこの地域と首都リスボン圏では、企業の特徴に対照的な相違があるそうです。リスボン圏の企業は伝統的に政府依存が強く、規模は大きいけれど国内市場への志向が強いそうです。他方、ポルト圏の企業は政府への依存が小さく、その分、規模は小さいが海外との交易に力を入れてきて、進取の精神に富むとのことでした。
最近は、官民挙げての海外市場への売り込みに、温厚なポルトガル人のイメージを超えた、ある種の鬼気迫るものさえ感じることがあります。日本がここでポルトガルの努力に協力できれば、将来の両国関係の発展に大きな効果があると思われます。危機の局面は飛躍の可能性を秘めていることも、忘れてはならないでしょう。
夏の盛りは、まだまだ続きます。
皆様にはご自愛のほどをお祈り申し上げます。
2.大使館からのお知らせ
(1)総政務・経済班からのお知らせ
【夏期及びクリスマス休暇手当の支給廃止に関する憲法裁判所の違憲判決】
7月5日、憲法裁判所は、トロイカ合意の一環として本年度予算から導入されている公務員と年金生活者を対象とした夏期及びクリスマス休暇手当の支給廃止に関し、憲法に定められた平等の原則に抵触するとして、明年度以降の実施は違憲との判決を下しました。
同日付政府発表によると、コエーリョ首相は今次判決を尊重しつつ、両休暇手当の支給廃止に相当する新たな施策を検討し、公務員と年金生活者以外の国民にも負担を広げざるを得ない旨述べました。
【国会(第12会期)の総括討論におけるコエーリョ首相とポルタス外相の演説】
7月11日、コエーリョ首相(社会民主党(PSD)党首)は、今次国会の総合評価を行う総括討論で冒頭演説を行い、政権発足(昨年6月)以来掲げる目標達成に向け、政府が努力の手綱を緩めることはないと述べ、引き続き財政危機の克服に取り組む姿勢を示しました。
また、同討論の閉幕演説を行ったポルタス外相(民衆党(CDS/PP)党首)は、1年前の危機的状況から抜け出すには賞賛されるべき国民の努力があったとし、現在直面する問題を解決できるのは現実主義であり、ユートピアではないと締め括りました。
【ポルタス外相の中国、香港、マカオ訪問】
ポルタス外相は、7月1~8日にかけて中国、香港、マカオを訪問し、李克強第1副首相を初めとする政府関係者との会談、各地企業家らとの夕食会、経済セミナーへの出席等を行いました。9日付外務省の発表によると、ポルタス外相はポルトガルと中国との戦略的パートナーシップを確認し合う上で重要な機会となり、中国は巨大な市場を有する経済大国であることから、同パートナーシップを最大限活用することでポルトガルはあらゆる恩恵を受けられると述べました。
【カヴァコ・シルヴァ大統領らの第9回ポルトガル語圏諸国共同体(CPLP)首脳会議出席】
7月20日、第9回CPLP首脳会議がモザンビークの首都マプートで開催され、ポルトガルからはカヴァコ・シルヴァ大統領、コエーリョ首相、ポルタス外相が出席しました(CPLP外部からはバローゾ欧州委員会(EC)委員長(ポルトガル出身、元首相:2002-04年在任)及びジョゼ・グラジアーノ・ダ・シルヴァ国連食糧農業機関(FAO)事務局長(ブラジル出身)が出席)。カヴァコ・シルヴァ大統領は会議後の記者会見で、ポルトガル語は経済及び政治的観点から世界的な公用語となる全ての条件を有していると述べました。また、ギニアビサウ情勢については国連安保理で議論されるべき問題であると指摘した上で、CPLPとしても基本原則に抵触した場合に当該国に対し制裁を課すことはクーデター発生の抑止に繋がると言及しました。さらに、同大統領は、今次会議での承認が見送られた赤道ギニア(現オブザーバー)のCPLP加盟問題に関し、今後新たなメンバーとなる国はCPLPの規約を完全に満たす必要があると述べました。
【ポルトガル中銀による2012年度夏期経済報告書】
7月10日発表されたポルトガル中銀の2012年度夏期経済報告書によると、本年のGDP成長率は前回(3月)から0.4ポイント上方修正され、▲3.0%となりました。同報告書では、ポルトガルは引き続き厳しい景気後退に見舞われ、2013年にかけて回復の兆しはあるものの、中期的な経済成長を果たすには不十分であり、今後は予想以上に困難な経済状況に直面する可能性も否定できないと指摘されています。なお、本年の貿易収支は黒字に転じる見込み(当地報道によると1943年以来初めて)である他、経常・資本収支も2013年には黒字の見通しとなっています。
今次経済報告書による主なマクロ経済見通しは下表のとおりです(単位%)。
2011年 | 2012年 | 2013年 | |
GDP成長率 | ▲ 1.6 | ▲ 3.0 | 0.0 |
個人消費 | ▲ 4.0 | ▲ 5.6 | ▲ 1.3 |
公共消費 | ▲ 3.8 | ▲ 3.8 | ▲ 1.6 |
内需 | ▲ 5.7 | ▲ 6.4 | ▲ 1.4 |
輸出 | 7.6 | 3.5 | 5.2 |
輸入 | ▲ 5.3 | ▲ 6.2 | 1.5 |
経常・資本収支 | ▲ 5.2 | ▲ 1.7 | 0.8 |
貿易収支 | ▲ 3.2 | 0.4 | 2.5 |
【NEDO・ポルトガル経済雇用省共催セミナーの開催】
6月27日、我が国NEDO((独)新エネルギー・産業技術総合開発機構)とポルトガル経済雇用省の共催によるスマートコミュニティに関するセミナーがリスボンにて開催されました。本セミナーは本年3月13日に両者間で署名されたエネルギー協力に関する合意文書(LOI)に基づき実施されたもので、主賓としてポルトガル側からはオリヴェイラ経済雇用省イノベーション担当副大臣、トリンダーデ同省エネルギー担当副大臣、フォンセカ・リスボン副市長、日本側からは四宮在ポルトガル大使、羽藤NEDO副理事長が出席、その他両国政府・関連機関、企業等から計約100名が参加しました。個別セッションでは「交通・モビリティ」「エネルギーマネジメント、省エネルギー」の2テーマを設け、スマートコミュニティを実現するための各分野の技術的な取組について専門家が紹介、活発な意見交換が行われました。
関連リンク:http://www.nedo.go.jp/ugoki/ZZ_100146.html
(2)広報・文化班からのお知らせ
【是枝裕和監督「奇跡」の上演】
リスボン市Cinema Kingにおいて、下記の通り是枝裕和監督作品「奇跡」(2011)の上演が行われます。詳細は下記までお問い合わせ下さい。
日時:8月9日(木)~(上映期間未定)
会場:Cinema King
住所:Av. Frei Miguel Contreiras, n°52ª 1070-282, Lisboa
問い合わせ先:218 480 808
【「第17回カナガワビエンナーレ国際児童画展」作品募集】
神奈川県では、世界各地からこどもたちの絵画を募集し、カナガワビエンナーレ国際児童画展を2年に一度、開催しています。第17回展については2013年7~8月に開催を予定しており、募集要項は以下の通りです。詳細は下記までお問い合わせください。
応募資格:神奈川県に在住・通学する満4歳以上15歳以下の子供
及び、海外在住の満4歳以上15歳以下の子供(国籍不問)
作品受付時間:2012年9月1日~11月30月
送付先:神奈川県横浜市栄区小菅ヶ谷1-2-1 神奈川県立地球市民かながわプラザ内
公益社団法人青年海外協力会
第17回カナガワビエンナーレ国際児童画展事務局
問い合わせ先:k-biennial@earthplaza.jp
【「いま、日本のアートをつむぐ―てわざ・こまやか」】
西川肇一氏企画、日本人アーティストのプロジェクト「いま、日本のアートをつむぐ―てわざ・こまやか」が下記の通り開催されます。詳細は下記までお問い合わせ下さい。
日時:9月22日(土)~10月20日(土)(木・金・土の15:00~19:00)
※レセプション:9月22日(土)16:00~20:00
会場:Por Amor à Arte Galeria
住所:Rua de Miguel Bombarda 572, 4050-379 Porto
問い合わせ先:226 063 699, 914 622 200 (Tel.)
poramoraartegaleria@hotmail.com / choartich@yahoo.co.jp
【講演「マンガから現代美術へ―震災以降のアートのゆくえ」】
上記事業の関連イベントとして、青木聖吾氏による講演「マンガから現代美術へ―震災以降のアートのゆくえ」が下記の通り開催されます。詳細は下記までお問い合わせ下さい。
日時:2012年9月24日(月)(16:00‐18:00)
会場:ミーニョ大学 人文科学部講堂
(Universidade do Minho, Auditório do Instituto de Letras e Ciências Humanas)
住所:Instituto de Letras e Ciências Humanas (ILCH),
Campus de Gualtar, 4710 - 057 Braga
問い合わせ先:253 604 170 253 604 171/2/3 (Tel.) 253 601 669 (Fax)
sec@ilch.uminho.pt / t_takamatsu@ilch.uminho.pt
【デモンストレーション・ワークショップ「オフセットリトグラフの技法、およびモノタイプへの展開」】
同じく上記事業の関連イベントとして、西川肇一氏による公開デモンストレーション及びワークショップ「オフセットリトグラフの技法、およびモノタイプへの展開」が下記の通り開催されます。詳細は下記までお問い合わせ下さい。
日時:9月17~21日のうち2日間
(現在調整中であり、詳しくは下記問い合わせ先にご確認下さい)
会場:ポルト大学 美術学部アトリエ
(Atelier da Faculdade de Belas Artes da Universidade do Porto)
住所:Av. Rodrigues de Freitas 265, 4049-021 Porto
問い合わせ先:225 192 400, 225 367 036 (Tel.)
scc@fba.up.pt / choartich@yahoo.co.jp
【「日本語能力試験」の開催】
国際交流基金と日本国際教育支援協会の主催による「日本語能力試験」(JLPT)が下記の要領で実施されます。詳細については下記までお問い合わせ下さい。
実施日時:12月2日(日)
実施会場:Faculdade de Letras da Universidade do Porto(ポルト大学文学部)
住所:Via Panorâmica, s/n, 4150-564 Porto
願書提出期間:9月17日(月)~10月9日(火)
問い合わせ先:日本語能力試験実施委員会又は大使館広報文化班
(3)領事班からのお知らせ
【E-mail登録のお願い】
インターネットを閲覧することができる方で、まだ当館にE-mailアドレスを登録されていない方は、是非E-mailアドレスをご登録ください。
E-mailを登録していただきますと、大使館便りをE-mailで受け取ることができるほか、イベントの告知や緊急情報等、大使館からの様々なお知らせもE-mailにてお受取りになれますので、E-mailアドレスの登録をお奨めします。
【在留届に関するお願い】
近年、海外で生活する日本人が急増し、このため海外で事件や事故等思わぬ災害に巻き込まれるケースが増加しています。万一、在留邦人の皆様がこのような事態に遭われた場合には、日本国大使館や総領事館は「在留届」を基に皆様の所在地や緊急連絡先又は日本国内の連絡先等を確認して援護活動を行っています。
当館でも、皆様に提出いただいた在留届により連絡先の把握を行い、大使館からの海外危険情報や広報文化活動などの情報提供、緊急時の連絡網整備、安否確認に役立てているところです。
このため、ポルトガル国内での転居、日本への帰国、他国への転出等、在留届の届け出事項に変更が生じた後、引き続きこの大使館便りをご覧の方は、速やかにその旨を下記領事班あてにE-mailにてご連絡ください。
また、皆様の友人・知人で「ポルトガルに居住しているが、まだ在留届を提出していない方」がおられましたら、届出を行うようご案内ください。
(4)その他
【当館領事業務へのご意見募集】
当館では、領事サービスの向上を図るため、皆様からのご意見を募集いたしております。どのような些細な事柄でも結構ですので、ご意見・ご要望等があればお気軽に領事班にご連絡ください。